2025年10月24日
- 認知行動療法
 
なぜ人は退職代行を使うのか/認知行動療法カウンセリングセンター静岡浜松店
――その背景にある“対話の止まった心”
こんにちは、認知行動療法カウンセリングセンター静岡浜松店です。
退職代行を利用する人が増えています。
若手だけでなく、30代・40代、時には管理職クラスでも「直接言えず、他者を介して辞める」という選択をする人がいます。
この現象を
「最近の人は打たれ弱い」
「自分で言えないなんておかしい」
と切り捨ててしまう声もありますが、そこには見落とされやすい心理的背景があります。
退職代行は“怠け”でも“逃げ”でもなく、
「心がこれ以上壊れないための最後の手段」 として使われる場合が少なくありません。
本来なら「辞めます」の一言で済むはずの場面。
しかし、その一言が胸の奥でつかえてしまい、言おうとすると、涙・恐怖・罪悪感のほうが先に出てしまう。
ここにあるのは意思の弱さではなく、
“言葉が成立しないほど追い詰められた心理状態” です。
1.なぜ人は退職代行を使うのか(表に見える理由)
退職代行を使った人に話を聞くと、次のような理由が挙がります。
- 上司が怖くて話せない
 - 会社に戻るのもつらい
 - 伝える場に立つだけで身体が固まる
 - 自分の言葉が相手に届くイメージが持てない
 - こじれたら自分が壊れる気がする
 
この段階では、「辞めたい」だけが問題ではありません。
「傷つきたくない」「これ以上崩れたくない」
 という、防衛反応のほうがずっと前面に出ています。
退職とは“選択”ではなく、“避難”。
心が限界まで摩耗した結果の行動であることが多いのです。
2.その奥にある“心理構造”
表面的には「伝えられない」ように見えても、
実際にはその前段階に、いくつかの心理的ハードルが積み重なっています。
| 見えている状態 | 実際には起きていること | 
| 上司が怖い | 対話=攻撃・拒絶という学習 | 
| 迷惑をかけたくない | 迷惑=存在価値の否定 | 
| こじれたくない | “一度崩れたら人生終了”という予測 | 
| 何も言えない | 感情過多で処理不能・思考停止 | 
つまり、
問題の正体は “性格の弱さ” ではなく
「関係の中でどう自分を扱っていいかわからない状態」
 です。
心理学的には、こうした状態をコミュニケーションの「機能不全」と呼びます。
これは、怒り・恐怖・羞恥(感情)が処理しきれなくなり、言葉よりも先に身体と防衛本能が反応してしまう状態です。
3.退職代行という選択が生む“二次的な負担”
退職代行そのものが悪いわけではありません。
適切な「緊急避難」として必要になる場面もあります。
しかし、そこで終わると次のような“後味”が残ります。
●① 問題解決の土台が育たない
伝える/終わらせる経験をしていないため、
次の職場で同様の局面が起きても対応スキルが身につきません。
●② 自己評価に影が残る
辞められた安心の裏側で
「自分には対話ができなかった」という引っかかりを抱える人は多いです。
●③ “避けると守れる”という学習が強まる
短期的には楽になりますが、
「言わない」という回避行動が強化され、不安耐性が育ちません。
●④ 人間関係の構造が繰り返される
原因は会社ではなく“対話不全”のため、場所を変えても再発しやすくなります。
退職の是非よりも重要なのは、
**「辞め方が、その後の自分の生き方に影響する」**という点です。
4.必要だったのは「勇気」ではなく“整理と対話の技術”
退職代行を使った人の多くは「勇気がない」わけではありません。
不足していたのは、
“自分の内側を整理する力” と
“境界線を穏やかに引く表現スキル” です。
人間関係において重要なのは「我慢」でも「支配」でもなく、
資料にもある通り 「折り合い(=境界線の調整)」 です。
【雛形60分版】⑧よりよい人間関係を築くためのコミュニケーショ…
ここが十分に練習されていないと、
- 我慢型(受け身)
 - ぶつけ型(攻撃)
 - 回避型(距離を置く)
 
のいずれかに偏り、対話が成立しなくなります。
退職代行は、この「折り合いの技術」が途絶えた地点で使われるものなのです。
5.認知行動療法(CBT)が支えられる領域
CBTは「考え方を変える技法」ではありません。
“対話ができるための下支えとなる土台” を整える方法です。
| CBTが扱うもの | 例 | 
| 事実と解釈の整理 | 「怒られる」に根拠はあるか | 
| 感情の言語化 | 苦しさの正体を明確にする | 
| 予測の検討 | “最悪”の確率と現実を切り分け | 
| 行動リハーサル | 伝え方・場面練習 | 
| 境界線の再設定 | 距離の結び直し方を学ぶ | 
退職を止めるのではなく、
“終わらせ方”や“離れ方”を自分の手に戻す支援 と言えます。
6.次の職場で同じことを繰り返さないために
退職という出来事そのものは、悪ではありません。
問題は、“何も回復しないまま次の場所へ移る”こと。
- 対話スキル
 - 境界線の引き方
 - 感情の扱い方
 
これらが整っていないと、
環境が変わっても「人間関係の型」は繰り返されます。
退職後に必要なのは
立ち去ることではなく、“回復” です。
まとめ
退職代行が増えている背景には
「対話力の低下」でも「メンタルの弱さ」でもなく、
“言葉が届かず止まってしまった心” があります。
だからこそ、本来取り戻すべきは
「強さ」ではなく、「対話の土台」なのだと思います。
認知行動療法は、辞めることを止めるための支援ではなく
“人間関係の結び直し方を育てる技術” として使うことができます。
もし、退職という選択のあとに
「もう同じ形で傷つきたくない」
「次は関係を断つ前に、自分の言葉で向き合えるようになりたい」
――そう思えるタイミングがきたとき、
CBTは現実的な支えとして役立てることができます。
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